Public Memo For Me

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書評:最悪の予感 パンデミックとの戦い

ツイッターのタイムラインで流れていた本書。著者については「マネーボール」という本で存じあげており良い印象を持っていたので、迷わずに購入をした。

どんな内容の本か?

なぜアメリカはコロナウィルスに対してうまく立ち回れなかったのか?を大論点に据え、疫病に対する国の施策やそれに関わっていた人をパンデミックが発生する20年前から振り返っていく。章ごとに登場人物が変わり、それぞれの視点から疫病や国のシステムに対する思いや行動を叙述し、最終的に今回のコロナパンデミックで全てが繋がる、という映画を見ているような爽快感を得ることができた。 少し難点なのは登場人物が多く、カタカナで覚えづらい(当たり前)。全く覚えることができなかったので、自分で登場人物一覧を作った。これは、本記事の最後に載せておくのでご活用いただきたい。

ここからは、私がこのコロナパンデミックに対して思っていることと本書に書いてあることが交わった点について述べていきたい。

アメリカはコロナ対応を本当にしくじったのか?

ここでいうコロナ対応は感染拡大防止のことを指す。これを確かめるため、感染者数が多い5カ国とそれに日本を加えて比較する。比較を簡単にするために、感染した人数と死亡した人数、あとそれらの割合で比較した。データは2021年8月27日時点を採用。

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(引用)

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-all/

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/

感染が発覚してから死亡に至るケースは他国と差はないが、人口あたりの感染者率を比較すると、アメリカだけ2桁台で頭一つ抜けている。特に日本と比較すると10倍近い差があることに驚いた。本書に書かれていた、感染者を検知するシステムが不全でありその結果拡散してしまったのだろうということが、ここからも読み取れる。

なぜ、アメリカは機能不全だったのか?

端的に言えば、権限が分散しており誰も腹を括って対応を扇動できなかったことが原因、と理解した。大統領、CDC*1州知事、保健衛生局 etc。

あと、そもそも自然由来のパンデミックを国として想定していなかった、もしくは、想定はしている人がいたが冷や飯を食わせれたいた、ことも原因にある。もし、2000年代に検討されていたパンデミックにかかる計画を真摯に取り組むことができていれば、状況はかなり改善できたのだろう。準備ができる素地があっただけに非常にもったいない。

誰かが今回のパンデミックのことをアメリカ版「失敗の本質」と形容していたが、的確である。自分たちの都合の良いようにしか事実を認識せず、気合いと根性で乗り切ろうとする姿勢、まさに当時の日本軍を想起させる。このことからわかる通り、日本の国民性が気合と根性を愛し備えているのではなく、人間誰しも備えている特性なのだと感じた。

パンデミックを防ぐには?

10万人都市で1人の感染者が出たら、緊急事態宣言を発出しないと防げない、書いてあっった。もちろんウイルスの再生産数によるが。東京で考えると、累計新規感染者数が140人ぐらいが緊急事態宣言のタイミングになるが、それは今から振り返ると2020年3月23日。1回目の緊急事態宣言が東京に発令されたのが2020年4月7日。日本の宣言発動はそこまで遅れていない。意外とこの国、うまくやれているのかもしれない、という自信になった。

終わりに

最初に述べたが、映画を見ている爽快感が本作品にある。ただ悲しいことにフィクションではなく、現実で起きていることだ。名もなき人*2たちの頑張りによって、最悪の最悪の事態は逃れられているが、まだまだ終わりは見えていない。コロナ収束とともにこれを原作にした映画を作って欲しい、と強く願う。


(おまけ1)学校を閉じる施策は意味があるのか?

日本の緊急事態宣言の中で学校を閉鎖する対応をとったことを記憶に新しい。私はこの施策を日本の政治家の思いつきの案だろうと考えていた。が、本書によると2003年に立案された疫病が市中で流行っている時の対策案として既に示されていた。理由は、学校環境は大人が思っている以上に密であると。例えば、狭い教室で何時間も拘束される、子供は他人との距離が大人と比較して異様に近いなど。言われてみれば確かにその通りである。モノをみるときに自分の常識だけを頼って考える癖が露呈した瞬間であった。

(おまけ2)どこかで使いたいエピソード

方針の必要性を説くシーンがあり、そこで引用されたエピソードが心に残ったので紹介する。ある部隊が雪山で遭難をしたが、たまたま地図を持っていたことで生還することができた。生還後、地図をみると今回の雪山と関係ない地図であったという話。非常に面白い話しで、要は何もない状態よりも間違えててもいいから指針やゴールを持っているとモノゴトを前に進めることができるという示唆を得ることができた。

(おまけ3)登場人物一覧

記載粒度が荒いので読みながら各人でアップデートされたい


  • ローラ・グラス:ボブ・グラスの娘、科学研究コンテストでパンデミックを扱う
  • ボブ・グラス:研究者、娘の研究を手伝う

  • マーク・ガーリー:チャリティの上司の上司

  • エンジェル:保健衛生局のトップ、チャリティの上司

  • チャリティ ディーン:医師、保健衛生官、ジャクションシティ出身、オレゴン州立大学出身、ウリバリンズからメールの転送を受ける。主人公、女性 https://www.phc.health/team-member/charity-dean-md-mph-tm-2

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  • ペイジ バトソン:チャリティと一緒に働いている(いた)看護師、
  • ティーブン ホセア:チャリティの研修医時代の師匠

  • ジーヴ:最初にパンデミック対策を政府で書いた人2005年頃
  • リチャード ハチェット:ラジーヴに協力する医師、その後ロンドンへ移住
  • カーター メーシャー:退役軍人、医師、ラジーヴに入力をする人、ほぼ主人公級の役割
  • リサ・クーニン:パンデミックの計画書に論理的なケチをつけた人、看護師

  • トム・ボサード:カーターの動向を気にする人

  • ジョー デリシ:カルフォルニア大学の医師、先生?、若く見える、優秀な人、赤電話

https://www.ibiology.org/speakers/joseph-derisi/ f:id:i-tomtom25:20210828130452p:plain

- マイケル ウィルソン:医学部の学生

*1:Centers for Disease Control and Prevention - アメリカ疾病予防管理センター

*2:本書ではL6と表現。このような危機が発生した時、事態を好転させるのはトップではなく、トップから数えて6階層目にいる人たち、という意味